大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京地方裁判所 昭和45年(行ウ)63号 判決

原告 小田明

第一二四号事件被告 中野区土地区画整理組合

補助参加人 伊藤亀吉

第六三号事件被告 東京都

主文

一  原告の被告らに対する各請求を棄却する。

二  訴訟費用は、原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  昭和三五年(行)第一二四号事件(以下「第一二四号事件」という。)

1  原告

(一) 原告と被告中野土地区画整理組合(以下「被告組合」という。)との間において、被告組合が昭和三四年一二月二一日付で別紙物件目録記載の土地(以下「本件従前地」という。)についてした換地処分が無効であることを確認する。

(二) 訴訟費用は、被告組合の負担とする。

との判決

2  被告組合

主文同旨の判決

二  昭和四五年(行ウ)第六三号事件(以下「第六三号事件」という。)

1  原告

(一) 被告東京都は、原告に対し金四四〇一万円およびこれに対する昭和四七年二月七日から完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

(二) 訴訟費用は、被告東京都の負担とする。

との判決ならびに仮執行の宣言

2  被告東京都

主文同旨の判決

第二原告の請求原因

一  第一二四号事件

1  被告組合は、昭和一六年八月二五日、都市計画法(大正八年法律第三六号)に基づく土地区画整理組合設立の認可を得て、所定の手続を了し、以来東京都中野区内の富士見町、広町、栄町通り二・三丁目、多田町、雑色町、八島町の各一部について土地区画整理事業を施行してきたものであるが、昭和三四年一二月二一日総会において、原告所有の本件従前地について換地処分(以下「本件処分」という。)を決定し、該処分は、昭和三五年三月一日東京都知事の認可を得、東京都告示二九二号をもつて告示された。

2  しかしながら、本件処分は、以下の理由により無効である。

(一) 本件処分は、耕地整理法(明治四二年法律第三〇号以下単に「法」という。)五四条所定の総会の議決、東京都知事の認可および告示を欠く設計書に基づくものである。

すなわち、法五四条によると、組合が設計書の変更をしようとするときには、該変更について総会の議決を経、かつ、地方長官の認可・告示が行なわれなければならないところ、本件では被告組合の当初の設計書によると、区道二〇号は延長一一四・四八メートルで、原告所有の本件従前地上を通過することになつていなかつたのに対し、本件処分の基礎となつた昭和三〇年以降の設計書によると、右区道はその延長が八六・二二メートルに変更されているのみでなく、その位置も西方へ約八・五メートル移動し本件従前地上を通過するように変更された。

ところが、被告組合は、右変更について総会の議決を経ておらず、また、都知事の認可・告示も行なわれていないから、右設計書の変更は、法五七条により原告に対抗し得ないものであつて、これに基づく本件処分は、重大かつ明白な瑕疵があり無効というべきである。

(二) 本件処分は、整理施行地の一部が整地未了のうちに行なわれたものであつて、法三一条に違反する。

すなわち、法三一条は、整理施行地の全部について工事が完了した後でなければ換地処分を行ない得ない旨定めているが、右規定の趣旨は、新しい土地が現実に造成されるまでは、土地の等位・価格など換地処分をする基準が定められないから、工事未完了のうちに換地処分をすることを禁止したものにほかならないところ、本件処分がされた昭和三四年一二月二一日当時、区道二〇号は未設置であり(右道路工事の発注は、昭和三五年五月中旬で、その工事完了は同年六月末である。)、原告が換地として交付された土地の一部約一五坪(別紙図面〈1〉、〈2〉の部分)は、整地未了で現在も道路として使用されているうえ、地下には直径三〇センチメートルの水道配水管が敷設されていて、原告が右部分を宅地として使用することは不可能な状態にある。したがつて、本件処分は、換地についての評価が客観的に不可能な時点においてされたものであつて、法三一条に違反する無効な処分というべきである。

(三) 本件処分は、所有者である原告になんらの通知もなくして行なわれたものであるから、無効である。

すなわち、法は、三〇条四項において、換地処分につき地方長官が認可を与えたときは、これを告示し、直ちに管轄登記所に通知すべき旨定めているほかには、個々の権利者に換地処分の結果を通知すべき旨の手続規定を設けていないが、土地区画整理法一〇三条の趣旨に鑑み、少くとも同法施行後は、なお耕地整理法が適用される土地区画整理組合にあつても、土地所有者に利害関係人としてその権利を主張し異議の申立てをすべき機会を与えるため、換地処分は「関係権利者に換地計画に定められた関係事項を通知してする」ものと解すべきであるにもかかわらず、本件処分については、原告に対し現在に至るまでなんらの通知もない。したがつて、本件処分には、この点において重大かつ明白な瑕疵がある。

(四) 本件処分は、法三〇条および中野土地区画整理組合規約(以下「規約」という。)三四条に違反する。

すなわち、法三〇条および規約三四条は、換地における等位・等価値の原則、被交付者の利益保障の原則を定めているが、本件処分においては、なんら合理的理由がないのに、右基準を無視して、次のように、原告に不利な処分をしたものである。

(1) 位置について

本件従前地(旧二九番の一)は、もと旧二九番の二の土地とともに一筆で、田中亀治郎の所有であつたが、原告は昭和一〇年ころ旧二九番の一の土地の南側約六〇坪の土地を、旧二九番の二の土地とともに借り受けて工場を建設した。原告は昭和一七年九月、旧二九番の一の土地の北側約一〇〇坪の土地を借り増し、さらに同一八年ころ同土地のその余の部分を借り受けて、旧二九番の一、二全部の土地を賃借し、整地したうえ工場および工員宿舎の敷地として使用していたが、同二三年ころ前所有者の相続人田中栄子が旧二九番の一の本件従前地を国に物納したので、同二八年三月二八日、原告は国から右土地の払下げを受け、その所有権を取得したものである。

ところが、本件処分により、原告が整地した前記土地の大部分は第三者の換地とされ、原告には換地として交付されず、他方、原告に換地として交付された土地(別紙図面赤線をもつて囲まれる部分、以下「本件換地」という。)は、そのうち西北の一角約一五坪(別紙図面〈1〉、〈2〉の部分)において旧二九番の一の部分より一メートル高いうえ、その一部は山林であるばかりでなく、同土地部分の地下には、前記のとおり、直径三〇センチメートルの配水管が敷設してあつて、整地も不可能であるため宅地として利用できない状態にある。

したがつて、本件処分は、本件従前地における主観的価値を全く無視し(本来ならば、別紙図面〈5〉の土地部分を中心に換地すべきものである。)、原告に対し著しく不利な位置において換地したものであつて、前記規約の趣旨にも反すること明らかであるから、行政庁の自由裁量の範囲を逸脱した違法・不当な処分である。

(2) 地積について

本件従前地の地積は、三七〇坪であるのに対し、本件換地の地積は二二〇坪で、その減歩率は約四〇パーセントであつて、近隣の類似条件の土地の減歩率(二九番の三の土地については三六パーセント、二九番の二の土地については二八・二パーセントである。)に比して、著しく原告に不利なものであるが、原告が地積においてこのように不利な換地処分を甘受しなければならない合理的な理由はない。

(3) 形状について

本件従前地がほぼ矩形に近い形であるのに対し、本件換地は別紙図面表示のとおりきわめて複雑な形状であつて、宅地として不適当ものである。そのうえ、前記〈1〉〈2〉の土地部分は、前記のとおり宅地として利用できないばかりでなく、原告の営む工場配置の点からみても使用不可能である。

以上のとおり、本件処分は、その位置、地積、形状において著しく原告に不利益なものであり、原告に対し、このように不利益な換地処分をすべき合理的な理由はないから、本件処分は、この点においても重大かつ明白な瑕疵があり、無効というべきである。

3  よつて、原告は、被告に対し、本件処分が無効であることの確認を求める。

二  第六三号事件

1  被告組合が本件処分をし、該処分が東京都知事の認司(以下「本件認可」という。)を得たこと、しかし、本件処分が違法な処分であることは、前記一の1および2記載のとおりである。そして、本件処分が違法なものである以上、これを認可した本件認可が違法な処分であることはいうまでもない。

2  ところで、都知事は、これらの違法の事実を知り得たにもかかわらず、監督上および認可権者としての過失により、これを看過して本件認可をしたものである。

3  本件認可によつて、原告は、次のとおり四四〇一万円の損害を被つた。

(一) 原告は、本件処分前、整地した三七〇坪の宅地たる本件従前地を所有していたところ、本件処分および本件認可により右土地を失い、その代りに、山林等を含む二二〇坪の本件換地を交付されたのであるから、本件認可によつて、整地した一五〇坪の宅地の所有権を喪失したことになる。

(二) そして、損害賠償額は、不法行為時において価格の騰貴を予見または予見しうべかりし事情があるときには、騰貴した現在価格をもつて算定し得べきところ、本件従前地の昭和四六年一〇月二五日現在における価格は三・三平方メートル(一坪)当たり二九万三四〇〇円、合計四四〇一万円である。

4  よつて、原告は、被告東京都に対し、都知事のした違法な本件認可による損害賠償として、金四四〇一万円およびこれに対する右不法行為の日の後である昭和四七年二月七日以降完済まで民事法定利率年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める。

第三請求原因に対する被告らの認否および主張

一  第一二四号事件

1  請求原因に対する被告組合の認否

(一) 請求原因1の事実は、すべて認める。

(二) 同2の(一)の事実のうち、区道二〇号の位置が原告主張のとおり西方に約八・五メートル移動していることは認めるが、その余の点は争う。

同2の事実のうち、区道二〇号にかかる工事が昭和三五年五月ころ発注され、同年六月ころ完了したこと(ただし、右は補修工事にすぎない。)、本件処分当時、本件換地の一部の地下に水道管が敷設してあつたことは認めるが、その余は争う。

同2の(三)の事実は、すべて争う。

同2の(四)の事実のうち、被告組合の規約三四条に原告主張の規定があること、本件従前地がもと旧二九番の二とともに一筆で、田中亀治郎の所有であつたが、昭和二三年ころ同人の相続人田中栄子が本件従前地を国に物納し、その後原告が国から右土地の払い下げをうけて、その所有権を取得したこと、本件従前地のうち原告主張の部分が原告に換地として交付されなかつたこと、本件換地の地積が二二〇坪で、その減歩率は約四〇パーセントであり、また、その形状が別紙図面の赤線で囲まれた部分のとおりであることは、いずれも認めるが、その余の事実は争う。

2  被告組合の主張

本件処分は、次の理由により有効である。

(一) 設計書の変更に関する手続上の瑕疵について

(1) 区道二〇号の位置の移動に関する設計書の変更については、昭和二〇年三、四月ころ被告組合総会の議決を得、そのころ東京都知事の認可・告示を経たものである。

(2) 仮に、右主張が認められないとしても、被告組合の規約一二条によると、設計書の些少な変更は評議員会の議決に委任されているものであるが、被告組合の区画整理の対象は四万六一一一坪一勺で、その中に幾多の都道、区道のあることに鑑み、前記の区道二〇号の移動はきわめて些少というべきところ、この点に関する設計書の変更については、昭和二〇年二月ころ被告組合の評議員会の議決を経たものである。しかも、このような些少な設計書の変更については、東京都知事の認可・告示を要しないものと解すべきであるから、本件処分についても、この点に関する瑕疵はないものというべきである。

(3) 仮に、右主張が認められないとしても、被告組合は、昭和二二年三月二〇日開催の組合総会において右設計書の変更を前提とする換地位置・面積を決定し、原告の前々主田中栄子はこれに基づく換地予定地指定処分および仮清算金処分に同意したものであるから、原告主張の瑕疵は治癒されたものというべきで、同人の承継人である原告は、この点についての違法を主張し得ないのである(都市計画法一二条二項、耕地整理法五条参照)。

(4) 仮に、本件処分の先行手続に、原告主張のような瑕疵があるとしても、行政処分は各々独立であるから、本件処分は先行手続の瑕疵を承継するものではない。

(5) 仮に、本件処分が先行手続の瑕疵を承継するとしても、区道二〇号の位置の移動についての設計書の変更は、昭和三四年一二月二一日の組合総会の議決に吸収され、しかも、その結果については東京都知事の認可・告示を経て、本件処分が行なわれたのであるから、設計書変更についての前記瑕疵は治癒されたものというべきである。けだし、設計書の変更についての組合総会の議決、都知事の認可・告示がなかつたとしても、換地処分においては変更された設計書に基づいて換地の議決、認可、告示がされたのであるから、組合総会および都知事の意思自体として、設計書の変更に異議があるはずがなく、したがつて、改めて設計書の変更を総会にはかり、その結果について認可・告示を求めたとすれば、当然議決、認可・告示が得られたはずのものだからである。

(二) 工事完了前の換地処分の効力について

そもそも本件処分当時における区画整理事業にあつては、公共施設の工事内容は極めて水準が低く、小さな区画街路は、官民境界の杭を打ち、素堀側溝、砂利敷きといつた程度の工事内容であつたのであるから、法三一条の趣旨からみて、この程度の工事があれば工事完了と解すべきところ、本件では、既に区道二〇号を含む官民境界は明確にされ、また、区道も道路として識別できる程度のものであつたのであつて、工事は完了していたものというべきである。

また、昭和三五年二月二七日付建設計発第九一号建設省計画局長通達によると、解散後の土地区画整理組合に残工事の施行を認めているし、法三一条但書によると、換地の時期につき規約による別段の定めも許しているのであるから、同条本文にいう「工事完了」の意味は、残務整理的工事の完了までをも含むものではないと解すべきところ、昭和三五年六月ころ完了した前記区道二〇号の工事は、同道路の補修を目的とするものであつて、新しい道路の発注工事ではなく、被告組合の残務整理として行なわれたものである。なお、原告主張の配水管は昭和三六年一一月ころ撤去した。

したがつて、本件処分について法三一条違反の事実はない。

(三) 処分通知の欠如について

本件処分の内容は、換地処分の議決がされた昭和三四年一二月二一日の被告組合の総会開催通知に際し、事前に原告に対して通知ずみであり、さらに、同三五年六、七月に換地後の本件土地の登記簿謄本を原告に送付して換地処分の結果を通知した。また、そもそも土地区画整理法一〇三条は本件に適用されるべきものではない。したがつて、原告への処分の通知を欠くことを理由とする原告の主張は理由がない。

(四) 法三〇条、規約三四条の適用について

(1) そもそも法六条によると、土地の所有者等整理施行地につき権利を有する者は、組合総会の議決において決定した耕地整理の施行に関する事項については異議を述べ得ないから、原告は、総会の成立や議決を争うのであればともかく、議決の内容である換地の指定、減歩率等について異議を述べることはできない。

(2) 仮に、右主張が容れられないとしても、本件処分は、法三〇条、規約三四条に違反するものではない。

すなわち、

(ア) 位置について

被告組合は、現地換地の原則に従つて本件処分を行なつたものであつて、原告の土地の位置について処分による移動はない。のみならず、本件換地は、別紙図面により明らかなように、西側において巾一一メートルの都道細二二号に、南側において巾六メートルの区道に、東側において巾六メートルの区道二〇号に面していて、いわゆる角地に位置し、本件従前地よりも、はるかに優位置に換地されたものである。

(イ) 地積について

被告組合の換地処分における減歩率は、各組合員の従前の土地の個々の立地条件が異るため様々であるが、組合員一〇一名のうち、四〇パーセント以上の者が二〇名を越え、しかも、そのうち七名の者は五〇パーセントを越えている(なお、被告組合が、主として区画整理事業の経費にあてるため、対象土地の約二割に当たる一万七〇八一坪余の土地を帝都高速度交通営団に売却したことなどの事情によつて、全体的に減歩率が通常より高くなつたものである。)。これに対し、原告の減歩率は約四〇パーセントで、全組合員の平均減歩率にほぼ等しいのみならず、本件換地の三面が道路に面するようになつた点を考慮すると、原告に対する換地の減歩率は、他の組合員に比してむしろ有利なものである。そして、このことは、原告の前々主田中栄子に対する換地予定地が一九三坪二合八勺であつたのに、本件処分においては、それより二七坪も多い二二〇坪が原告に交付されている点からみても明らかである。

(ウ) 形状について

本件換地の形状は、別紙図面の赤線により囲まれた部分のとおりであるが、右は宅地として適当な形状であつて、原告主張のようにきわめて複雑なものとはいえない。

以上のとおり、本件処分は、その位置、地積、形状において、原告に対し著しく不利なものとはいえない。

(五) 仮に、なんらかの理由により本件処分に瑕疵があるとしても、いずれも重大かつ明白な瑕疵にはあたらないから、本件処分を無効ならしめるものではない。

(六) 仮に、右主張が認められないとしても、原告は、昭和三五年五月一九日被告組合より補償金九〇万一〇〇一円を受領し、被告組合に対し以後なんらの要求をしない旨を誓約し、本件処分を承認しているのであるから、本件請求は失当である。

(七) 仮に、以上の主張が認められないとしても、本件処分を無効とすることは公共の福祉に反する。

すなわち、本件処分のように、原告を除く全組合員一〇〇名が換地を承認し、現に各組合員はその換地を自己の所有地として使用・収益し、かつ、登記手続も了え、また、これにより道路、河川が確定され、公園が設置・利用されて現在に及んでいるのに、当該換地処分を無効とするならば、他の組合員に対する換地処分も無効とならざるを得ず、現実には区画整理が完了しているにもかかわらず、組合員の土地所有権は従前の範囲に及ぶこととなり、無用の混乱を招き、公共の福祉に反する結果となることは明らかである。

二  第六三号事件

1  請求原因に対する被告東京都の認否

(一) 請求原因1の事実のうち、被告組合が本件処分をし、該処分につき東京都知事が本件認可をしたことは認める。

(二) 請求原因1において引用される第一二四号事件の請求原因一の2の本件の違法事由である各事実については、

(1) 同(一)の事実中、原告主張の設計書の変更のあつたことは認めるが、その余の事実は否認する。

(2) 同(二)の事実のうち、本件処分当時、区道二〇号についていまだ工事に着手しておらず、また、本件換地に水道配水管が敷設されていたことは認めるが、その余の事実は否認する。

(3) 同(三)の事実のうち、原告に対する通知の点は不知であり、その余の事実は否認する。

(4) 同(四)の事実のうち、本件処分によつて原告の本件従前地中整地された部分を第三者に換地として割り当て、本件換地には宅地として利用不可能な土地が含まれているとの点、本件換地も従前の矩形に比し、三角形に近い複雑な形状であること、同換地が合理的な根拠もなく原告に不利益なものであるとの点はいずれも否認し、原告がみずから本件従前地を整地したとの点は不知であるが、本件換地の減歩率が四〇パーセントであることは認める。

(三) 請求原因2のうち、東京都知事が本件認可をしたことは認めるが、その余の事実は否認する。

(四) 請求原因3のうち、本件従前地が登記簿上三七〇坪であり、本件換地が二二〇坪であること、本件従前地の昭和四六年一〇月二五日現在における価格が三・三平方メートル当たり二九万三四〇〇円であることは認めるが、その余の事実は不知である。

2  被告東京都の主張

(一) 本件処分が適法であることは、被告組合の主張のとおりである。

(二) 仮に、区道二〇号に関する前記の設計書変更について、設計変更に総会の議決および都知事の認可がなかつたとしても、その後本件処分の認可前に三回にわたり他の点についての設計変更の認可がされ、これらにおいては既に区道二〇号は前記のとおり設計変更されていたのであるから、右時点において、区道二〇号の設計変更を含めて、総会の議決(またはこれに代る組合評議員会の議決)および都知事の認可があつたものとみるべきである。

(三) そもそも法三一条但書によれば、換地処分の時期について規約による別段の定めを許容しているところ、規約三三条によれば、換地処分は組合長が適当と認める時期に行なう旨定められているから、被告組合においては、工事が完了していなくとも、組合長が適当と認める時期に換地処分を行ない得るものと解すべきところ、本件においては、仮に本件処分当時工事が完了していなかつたとしても、組合長が右規約に基づき本件処分を行なつたものということができるから、この点に関し違法はないものというべきである。

また、仮に、本件処分の認可に際し、法三一条にいう工事が完了していなかつたとしても、認可後間もなく設計書どおり完全に道路は完成したのであるから、都知事の認可が法三一条に違反するとしても、右瑕疵は、その後の工事の完了により治癒されたものというべきである。

(四) 法によると、換地処分は、知事の認可の告示によつて効力が発生するのであるから、該認可後に組合が権利者に対して行なう換地処分の内容についての通知は、土地区画整理法一〇三条一項の通知とは異り、単なる事実行為にすぎず、これを欠く換地処分も違法な処分ということはできない。

(五) 仮に、本件処分が無効であつたとしても、その場合には、原告は従前の所有地について、現所有者に対しその返還を求めることができるのであるから、原告には損害がないことに帰する。したがつて、原告はこのような場合に従前地の喪失による損害賠償を請求することはできない。

(六) 仮に、原告の損害賠償請求権が発生したとしても、右請求権は、本訴提起のときは既に時効により消滅していたのであり、被告東京都は本訴において右時効を援用する。

すなわち、不法行為による損害賠償請求権は、被害者が損害および加害者を知つた時から三年以内にこれを行使しなければ時効によつて消滅するところ、本件処分について、東京都知事は昭和三五年三月一日に認可の告示をしたのであるから、原告は右時点において加害者および損害を知り得たはずであつて、右告示と同時に時効期間は進行し、同三八年二月末日において消滅時効が完成したものというべきである。

第四被告らの主張に対する原告の反論

一  第一二四号および第六三号事件に共通のもの

1  区道二〇号に関する設計書変更について

(一) 区道二〇号の位置は八・六メートル西に移動した設計書変更の結果、原告の所有地の真中を道路が通過することとなり、換地上決定的な影響をうけることになつたのであつて、これは被告ら主張のような「些少な変更」にはとうてい当たらない。

(二) 被告らは、区道二〇号についての設計書の変更は、昭和三四年一二月二一日の組合総会の議決によつて吸収され、その後の都知事の認可、告示によつて瑕疵が治癒された旨主張するが、設計書の変更に関する手続は、換地処分とは独立の行政行為であるから、これに吸収されることはなく、後に換地処分について認可、告示があつたとしても、瑕疵は治癒されない。

(三) 被告らは、原告の前々主田中栄子が昭和二二年三月二〇日の被告組合総会において設計書の変更について同意したから、設計書変更についての瑕疵は治癒された旨主張するが、右被告総会における議案は、「換地位置・面積並に仮清算に関する件、但し些少なる変更は評議員会に委任する件」に関するものであつて、設計書変更に関するものではないから、仮に右議案に対する同意があつたとしても、これによつて設計書変更に同意したことにならないのは明らかである。

2  法三一条所定の工事完了について

(一) 被告らは、法三一条所定の「工事」は、官民境界を明らかにする限度のもので個々の換地内での整備までは含まない旨主張するが、右のような限定的解釈をとるべき合理的根拠はなく、本件換地内には旧道路がそのまま存在し、その地下には水道配水管等が埋設されたままであるのに、これらの公共施設の撤去が区画整理事業における「工事」の範囲外であるとはとうてい考えられない。

(二) また、被告らは、同法条但書により、規約三三条に基づき、組合長の専断で工事未完了のまま換地処分を行ない得ると解しているが、右但書の趣旨は、工事完了前に換地処分をする合理的な必要性があり、かつ、これに関する具体的な規約がある場合には、これに従い得る旨を定めたにすぎないのであつて、被告らのように同条本文の趣旨に反して換地処分を行なう権限を組合長に与えたものと解することはできない。

(三) 換地処分の効力は、地方長官の認可行為によつて完結する行政権行使の一態様である以上、その違法性の判断の基準時は右完結の時点でなければならないから、仮に瑕疵がその後の事実行為によつて治癒されるようなものであるからといつて、違法な処分が遡つて有効になるものではない。とくに、法三一条は、換地処分前に工事を完了させることによつて、同処分により利害関係を有する国民の権利の保護を担保するために規定されたものであるから、権利保護を全うするための手続は厳格に解されるべきである。

3  法六条の趣旨について

法六条が、被告ら主張のごとく、本件のような訴訟自体を禁止しているものとすれば、同条は、国民の裁判を受ける権利を規定した憲法三二条に違反し、無効というべきである。

4  補償金受領による承認について

被告らは、原告が被告組合から本件処分について補償金九〇万一〇〇一円を受領して本件処分を承認した旨主張するが、右補償金は、原告が田中栄子から賃借していた土地のうち、都市計画道路細二二号線にかかる部分の建物、機械設備および庭木等の移転補償として東京都から交付されたものであつて、本件処分の損害補償金として被告組合から受領したものではないのみならず、原告は右受領当時本件処分そのものを全く聞知していなかつたのであるから、原告が右受領により本件処分を承認することはあり得ない。

しかも、原告は昭和三五年六月初めに本件処分を知るや直ちに同月九日付で被告組合に対し異議申立てをし、次いで同年七月七日付で東京都知事に異議申立てをしているのであるから、このことからも原告が本件処分を承認したものでないことは明らかである。

二  第一二四号事件関係

被告組合は、原告の請求を認容することは公共の福祉に反すると主張し、行訴法三一条は、公共の福祉との関係で行政処分取消請求を棄却し得る場合がある旨を定めているが、同条は行政処分の無効確認訴訟には、準用されない(同法三八条)から、被告組合の右主張は失当である。

仮に右主張が認められないとしても、換地処分のような行政処分は、関係者が多数で公共の福祉に密接な関係があるというだけで、直ちに違法な処分が適法になることはないし、また本来無効な処分が事後の既成事実によつて有効になることもない。

三  第六三号事件関係

本件処分が無効とされれば、原告は本件従前地の所有権を回復し得ることになることは、被告東京都主張のとおりであるが、既に本件認可の日より一〇年以上経過していて、従前地を時効取得されている蓋然性があることおよび区道二〇号の建設の既成事実に鑑み、原告が本件従前地の所有権を現実に回復することは事実上ないし法律上不可能といえるから、原告は右の所有権回復不能による損害について賠償請求を行ない得るものである。

第五証拠関係〈省略〉

理由

第一第一二四号事件(処分の無効確認請求)

一  請求原因1の事実(本件処分の経緯)は、当事者間に争いがない。

二  そこで、まず、本件処分に違法事由があるか否かについて検討する。

1  設計書の変更に関する手続的違法の有無

(一) 成立につき争いのない甲第一号証の一、二、第四号証の一ないし三、第五号証の二、証人山隈三四の証言(第一回)により成立を認める乙第二号証の二、第一一号証および証人山隈三四(第一回)、同大谷惇の各証言を総合すると、被告組合の土地区画整理の当初の設計書においては、区道二〇号は延長一一四・四八メートル、幅員六メートルとなつていたところ、昭和一九年初めころ右道路をなるべく平坦地に通すため、その位置を西方へ約八・五メートル移動させ(右移動の点は当事者間に争いがない。)、そのため、道路延長も八六・二二メートルに短縮する旨の設計書の変更が行なわれ、そのころ右変更について被告組合の評議員会の議決を経たことが認められ、右認定に反する証拠はない。

(二) ところで、原告は、右設計書の変更は総会の議決を経ていないから違法、無効である旨主張するが、法六二条一項によれば、総会は規約の定めによつてその権限に属する事項を評議員会に委任することができるところ、証人大谷惇の証言により成立を認める乙第一号証、証人大谷惇、同山隈三四(第一回)、同服部一郎の各証言、被告組合代表者の尋問の結果によると、被告組合は、規約一二条により設計書の些少な変更を行なうことを評議員会に委任していたことが認められる。そして、証人大谷惇の証言により成立を認める乙第六号証の四、証人山隈三四の証言(第二回)により成立を認める乙第一四ないし第一六号証、証人大谷惇、同山隈三四(第二回)の各証言によると、本件土地区画整理の規模は、民有地が四万六一一九坪余(換地後は四万八〇二八坪余)、道路、水路、堤塘は、それぞれ二二五四坪余、二六二二坪余、一一八四坪余(換地後は、それぞれ六五三六坪余、一八五五坪余、三三六坪余)に及び、幾多の道路を包含していることが認められるから、前記の設計書の変更は、右の土地区画整理全体の規模からみて、その全体に影響を及ぼすほどのものではなく、比較的小範囲の当該部分限りの変更で足りるものであることが明らかであつて、規約一二条所定の「些少ナル変更」に該当し、評議員会の議決を経れば足りるものというべきである。したがつて、原告のこの点に関する主張は理由がない。

(三) さらに、原告は、右設計書の変更は東京都知事の認可・告示を経ていないから、違法・無効であると主張し、被告組合は、このような些少な設計書変更については、東京都知事の認可・告示を要しない旨反論するので、この点につき判断するに、法五四条は、組合が設計書の変更をしようとするときには、総会の議決および地方長官の認可・告示を要する旨定め、とくにこれらを必要とする場合を限定しておらず、また、前記規約一二条は、総会の表決すべき事項について些少な設計書の変更など一定のものを評議員会に委任する旨を規定しているにすぎないから、被告組合主張のように些少な設計書の変更については都知事の認可・告示を経ることを要しないものと解することはできない。

そこで、本件についてこれをみると、証人山隈三四の証言(第一回)によれば、被告組合は前記設計書の変更につき評議員会の議決を経た後、東京都知事に対し、右評議員会議事録を添付して該設計書の変更について認可の申請をしたが、戦災等のため認可を得るに至らなかつたことが認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。

しかしながら、成立につき争いのない甲第四号証の一ないし三、乙第六号証の一、二、(ただし、甲第七号証の一と同一のもの)証人大谷惇の証言により成立を認める乙第四号証の一ないし三、第五号証の一、二、第六号証の三、四、成立につき争いのない丙第一ないし第三号証および証人大谷惇、同服部一郎の各証言、被告組合代表者尋問の結果ならびに弁論の全趣旨を総合すると、被告組合は、昭和三〇年二月九日東京都知事に対し、地区、規約および設計書の変更の認可を申請した際、区道二〇号に関する敷砂利工事費予算額の変更の認可申請をし、他の変更とともに、都知事の認可告示を経たが、右予算額の変更は区道二〇号に関する前記の設計書の変更を前提とするものであつたこと、被告組合は、昭和三四年一二月二一日総会において本件処分を含む整理施行地内の換地処分の議決をした後、同三五年二月一日東京都知事に対し右換地処分の認可を申請し、同年三月一日その認可を受け、その頃その旨の告示を経た(右議決・認可・告示の点は当事者間に争いがない。)が、右換地処分は、区道二〇号に関する前記の設計書の変更を前提としこれを包含するものであつたことが認められ、右認定を左右するに足りる証拠はない。したがつて、被告組合が区道二〇号に関する前記設計書の変更について当時都知事の認可・告示を経なかつた手続上の瑕疵は前認定のとおり、それが認可申請後戦災に遭遇したためであつて、認可・告示をしないことについて実体上の理由があつたわけではないことなどの事情を合わせ考えると、該設計書変更を前提とする同道路に関する右工事費予算額の変更および右換地処分についての東京都知事の各認可・告示の経由により治癒されたものと解するのが相当である。

2  法三一条違反の存否

原告は、被告組合が整理施行地の工事完了前に本件処分をしたから法三一条本文に違反する旨主張し、被告組合は、同条但書による規約上の別段の定めがあるから適法な処分であると主張するので、この点について考察する。

なるほど、法三一条但書は、規約に別段の定めがある場合について同条本文の適用を除外しており、また、被告組合の規約(前掲乙第一号証)三三条によると、換地処分は組合長が適当と認める時期に行なう旨定められているが、法三一条但書の趣旨は、規約の定めによれば工事完了前のいかなる時期においても換地処分を行ないうるとするものではなく、整理施行地の全部について工事が完了する以前においても、当該換地処分が従前の土地の地目、地積、等位等に照応して公平に行なわれるべきことおよび換地の現実の使用に著しい支障がないことを保障しようとする同条本文の基本的要請に反しない限度において、規約の定めにより換地処分をすることを許容したものと解すべきである。したがつて、被告組合の規約三三条も右の趣旨において限定的に解釈されるべきである。

そこで、本件についてこれをみると、前掲甲第四号証の二、成立につき争いのない甲第五号証の一、二、第九ないし第一一号証および証人大谷惇、同嶋崎彦八(一部)の各証言、被告組合代表者尋問の結果原告本人尋問(第二、第四回)の結果の一部ならびに弁論の全趣旨を総合すると、本件処分当時には、本件区画整理施行地内の殆んどの道路には、整地して転圧し砂利を敷く程度の工事が行なわれていたところ、区道二〇号については、それまでに工事のための杭打ちを行なつたが、原告が杭を抜くなどして妨害に出たためその後の工事に着手し得ず、昭和三五年五月に入つて始めて原告が妨害をやめたので土盛り、溝堀り、砂利敷きなどの工事に着手し、同年六月末ころこれを完了したこと(右工事の時期については当事者間に争いがない。)、本件換地は、本件処分当時別紙図面〈2〉の土地の地下の一部に水道配水管が埋設されていた(右配水管の存在の点は当事者間に争いがない。)が、右は本件換地の西北隅の小範囲にすぎなかつたので、本件換地の使用上さしたる支障はなく、右水道配水管は昭和三六年末ころ撤去されたこと、本件区画整理施行地内の物件移転工事も遅くとも同三五年三月ころまでには完了したこと、民有地の整地は本件区画整理事業の対象となつていないので、民有地は全般的に整地されないまま換地されたことが認められ、右認定に反する原告本人尋問(第二、第四回)の結果および証人嶋崎彦八の証言部分は、前掲証拠に照らし、いずれも採用できず、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。

してみると、本件処分当時において、本件換地は、公道との境界には杭が打たれて、少なくとも原告との関係において図面上のみならず現地でもその範囲が確定されており、また、同地内の障害物も西北隅のごく一部に残存したにすぎず、同土地を現実に宅地として使用するについて著しい支障はなく、(右障害物のために原告の同土地の使用が現実に妨げられたことを認めうる証拠はない。)かつ、従前の土地と換地との照応の点を判断する上でも格別の障害がない状況にあつたものということができるから、本件処分は被告組合の規約三三条に則り適法にされたものというべきであり、原告の法三一条違反に関する主張も採用するに由ない。

3  原告に対する通知の有無

原告は、本件処分が土地所有者たる原告になんらの通知もなくして行なわれたから無効である旨主張するのでこの点について判断する。

法による換地処分は、土地区画整理法によるものとは異り、同法一〇三条一項のような関係権利者に対する通知を必要とする旨の規定がなく、換地処分について、総会の議決を経た後、地方長官の認可を受け、その告示がされれば、その効力を生ずる旨定められている(法一七条)から、換地処分に際し関係権利者に対してその内容の通知をすることは同処分の要件ではないものと解すべきである。したがつて、原告のこの点に関する主張は、失当というほかない。

(なお、原告は、本件処分前においても本件区画整理に関して被告組合からなんら通知を受けなかつた旨主張するが、少くとも、前掲乙第四号証の一ないし三、第五号証の一、二および証人大谷惇の証言ならびに被告組合代表者尋問の結果を総合すると、被告組合は、換地処分の表決のあつた昭和三四年一二月二一日の総会については、そのころ、原告に対し総合通知書に換地明細書および換地実測図を同封して郵送したことが認められ、右認定に副わない原告本人尋問の結果(第一、第二回)は前掲証拠に照らして採用できない。)

4  法三〇条ないし規約三四条違反の有無

原告は、本件処分が法三〇条および規約三四条所定の換地における等位・等価値の原則、被交付者の利益保障の原則に違反する違法・無効な処分である旨主張するので、以下この点について検討する。

(一) まず、被告組合は、法六条に基づき、土地の所有者等は組合総会の議決において決定した区画整理の施行に関する事項については異議を述べ得ない旨主張するが、同法の趣旨は、適法な区画整理の施行に対しては、所有権者等は施行の当否につき異議を述べ得ないことを定めたにすぎず、法令ないし規約等に反する違法な区画整理の施行に対する出訴まで禁止したものと解することはできないから、被告組合のこの点に関する主張は理由がない。

(二) そこで、次に、本件処分における法三〇条ないし規約三四条違反の有無について判断する。

(1) 位置について

弁論の全趣旨により本件従前地および本件換地付近の図面であると認められる甲第一六ないし第一八、第二〇号証、原告本人尋問(第四回)の結果により本件換地の現場付近の写真であると認められる甲第三〇号証の一、二、成立につき争いのない甲第三一号証、前掲乙第六号証の四および証人山隈三四(第一、第二回)、同大谷惇、同服部一郎の各証言ならびに弁論の全趣旨を総合すると、本件換地は、別紙図面中赤線(編注-------部分)で囲まれた部分であり、本件従前地は同図面中青線(編注―-―-部分)で囲まれた部分であつて、本件換地は本件従前地とその南側部分において相当の範囲にわたつて重なり合う、いわゆる現地換地であるところ、本件従前地は、その東および西の境界においてわん曲した狭い道路に面していたのに対し、本件換地は、その西側境界において幅員一一メートルの公道(細二二号線)に面し、その東側境界において幅員六メートルの公道(区道二〇号)に面し、南側境界においてもほぼ同幅員の区道に接していて、いわゆる角地に位置していることが認められ、本件換地は本件従前地に比して、その道路条件において僅かに優位にあるものということができる。

もつとも、前掲甲第二〇号証、弁論の全趣旨により成立を認める甲第二四号証、前掲甲第三〇号証の一、二、原告本人尋問(第四回)の結果により本件換地付近の写真と認められる甲第三〇号証の三ないし九および原告本人尋問(第一、第二、第四回)の結果ならびに弁論の全趣旨を総合すると、原告は、昭和一七年ころ、当時賃借中の本件従前地の北東部のいも畠約二〇〇坪を工場敷地に用いるため整地したため、当該部分は比較的平坦地になつていたところ、右平坦地のかなりの部分は他へ換地され、原告に交付された本件換地のうち、別紙図面〈1〉の部分は整地されていない原野で、他の土地部分との間に高低差があり、また、同〈2〉の部分は、旧区道跡であつて、本件処分当時は、その地下に水道配水管が埋設されていた(ただし、後に撤去された。)ことが窺われるが、右〈1〉および〈2〉の部分は本件換地の西北隅の僅少部分にすぎず、当時本件換地も宅地として使用できる状況にあつたことは前記認定のとおりであり、右認定の状況からみて、あるいは本件換地の利用の仕方によつては若干の整地費用等を必要とすることが予測されるにしても、本件換地における前記道路条件の優位性を勘案すると、この程度のことをもつて、本件処分が法三〇条、規約三四条所定の照応の原則等に違背するものということはできない。

(2) 地積について

本件従前地の面積が三七〇坪であつたのに対し、本件換地の面積が二二〇坪であつて、その減歩率が約四〇パーセントであることは、当事者間に争いがない。

成立につき争いのない乙第七号証、第一二号証の三、第一三号証の一ないし四、被告組合代表者尋問の結果により成立を認める乙第一二号証の一の一、二、前掲乙第一四、第一五号証、および証人大谷惇、同山隈三四(第二回)、同服部一郎の各証言、被告組合代表者尋問の結果ならびに弁論の全趣旨(とくに被告組合の昭和三九年九月二五日付準備書面における減歩率の主張)を総合すると、被告組合が昭和二〇年三月二七日本件区画整理の施行地の約二割に及ぶ土地を帝都高速度交通営団に売却し、その代金を本件区画整理の費用等に充てたほか、法一一条所定の公共用地を二六六六坪余増加したことなどによつて、本件区画整理施行地における減歩率は一般的にかなり高いものにならざるを得なかつたこと、該施行地内の土地所有者についての減歩率は、三割ないし五割のものが相当数ある反面、それより低いか殆んど減歩のない換地もかなりあること、原告の本件換地の近隣の換地の減歩率は、中野区栄町三丁目二九番の二の換地をうけた長尾正一において二八・一パーセント、同町同丁目二九番の三の換地をうけた荒井亮において四五・四パーセント、同町同丁目二九番の四の換地をうけた相馬恵胤において二八・二パーセント、同町同丁目二九番の五等の換地をうけた伊東亀吉において三一・八パーセントであつたこと、そして、右のような減歩率の相違が生じたのは、主として地形、地積、建物の位置関係、各土地の位置の良否等によること、原告は本件処分以前から本件換地の減歩率に不満で、本件区画整理の施行に非協力的であつたが、昭和三五年五月一九日被告組合から本件換地処分に関し、建物移転その他のあらゆる損失に対する補償金として九〇万一〇〇一円の支払いをうけ、被告組合に対し以後本件に関しなんらの要求をしないことを約したことが認められ、右認定に反する原告本人尋問(第一、第三回)の結果は前掲証拠に対比して採用できず、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。

およそ、換地による減歩率なるものは、これを同一区画整理施行地内において機械的に一律のものとすることが必ずしも合理的とはいえず、整理施行者において、各土地の状況(地目・地積・等位)等を勘案した合理的な裁量により土地所有者間に著しい不公平を生じないように換地すれば、法三〇条、規約三四条の趣旨に合するものということができる。そして本件についても、区画整理施行地内の土地所有者間において減歩率に若干の相違があるけれども、それは前記のような原因に基づくものであり、原告の本件換地については、前認定のような優れた道路条件にあることなどを考え合わせると、約四割の減歩率は、一概に他の土地所有者に比して不利益なものとはいえず、これが法三〇条、規約三四条に反するとはとうてい断じ得ない。

(3) 形状について

本件換地の形状が別紙図面中の赤線(編注-------部分)で囲まれた部分のとおりであることは、当事者間に争いがないが、前掲甲第三一号証および弁論の全趣旨によると、本件換地の形状は、三角形の北東端に方形状部分を接続した不整形的画地であるため、形状において多少減価要因を含むものであるにしても、これを工場・倉庫等の敷地として用いるとき最も有効であり、かつ、面積が二二〇坪あり公道との接面状況に優れている点を考えれば、本件換地が原告主張のように形状においてとくに劣悪であるということもできない。以上認定した事実を総合勘案すると、本件処分が本件換地の位置・地積・形状のいずれにおいても原告にとつて不利益なものとはいえず、したがつて、これが著しく公平さ、妥当さを欠く処分であるとはとうてい断じ得ない。よつて、原告の法三〇条・規約三四条に基づく主張も採用するに由ないものである。

三  以上判示の理由により、被告組合が行なつた本件処分には、原告主張のような違法がないものということができる。

よつて、原告の本件処分の無効確認請求は、その余の点について判断するまでもなく理由がないことが明らかである。

第二第六三号事件(損害賠償請求)

一  請求原因1の事実のうち、被告組合が本件処分をし、東京都知事が本件処分について本件認可を与えたことは当事者間に争いがない。

二  そこで、次に本件認可の違法性について検討する。

原告が主張する本件認可の違法事由は、すべて本件処分の違法事由に基づくものであるから、まず、本件処分の違法の有無について判断する。

1  設計書の変更に関する手続的瑕疵の有無

原告のこの点に関する主張は第一二四号事件におけるそれと同一であり、被告東京都は、そのうち設計書の変更の事実を認め、その余の点を否認しているから、前記第一の二の1所掲の判示部分をここに引用する(ただし、「設計書の変更の点については、当事者間に争いがない。」とつけ加える。)

してみると、原告の右主張の理由のないことは右判示のとおりである。

2  法三一条違反の存否

被告東京都が本件処分当時区道二〇号についていまだ工事に着手していなかつたことを認め工事の時期を争つているほか、法三一条違反の存否に関する当事者の主張、認否は、第一二四号事件におけるそれと同一であるから、前記第一の二の2所掲の判示部分をここに引用する。

(ただし、同箇所中「(右工事の時期については当事者間に争いがない。)」とある部分を除く。)。

とすれば、原告のこの点に関する主張も失当であることは、右判示のとおりである。

3  原告に対する通知の有無

当事者双方のこの点に関する主張・認否は、第一二四号事件におけるそれと同一である(もつとも、第一二四号事件において、被告組合が原告の主張事実を争うと述べているのに対し、本件では、被告東京都が通知の点は不知、その余の事実は否認すると述べているが、右の相違は本件争点に対する判断に影響を及ぼすものではない)から、前記第一の二の3所掲の判示部分をここに引用する。

してみると、原告のこの点に関する主張が採用できないことは右判示のとおりである。

4  法三〇条ないし規約三四条違反の存否

この点に関し第一二四号事件においては、被告組合が、本件従前地のうち原告主張の整地部分が原告に換地として交付されなかつたこと、本件換地の地積が二二〇坪で、その形状が別紙図面の赤線(編注-------部分)で囲まれた部分のとおりであることを認めているのに対し、本件では、被告東京都は、これらの点を認めていないが、前記第一の二の4の(二)所掲の各認定証拠によれば、これらの各事実を認めることができ、その余の点に関する当事者の主張・認否は第一二四号事件におけるそれと同一である(「争う」と「不知、否認」の相違は本件争点に対する判断においては同一視しうることは既に述べたとおりである。)から、前記第一の二の4の(二)所掲の判示部分をここに引用する。

とすれば、原告のこの点に関する主張が理由がないことは右判示のとおりである。

したがつて、本件処分に原告指摘のような違法のないことは、明らかというべきである。

三  よつて、原告の本件損害賠償請求も、その余の点について判断するまでもなく失当というほかない。

第三結論

以上判示の次第で、本訴各請求は、いずれも理由がないから、棄却することとし、訴訟費用の負担について行訴法七条、民訴法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 杉山克彦 加藤和夫 石川善則)

(別紙)

物件目録

東京都中野区栄町通三丁目二九番の一

宅地 三七〇坪

図〈省略〉

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例